マンガのとかいろいろ

 

 

 



わんこ契約時捏造テキスト


歪みは都全体を

はては世界を覆い尽している。


誰も信用などできない

目に見えない謀略や蹴落としあいをくぐり抜けなければならない

正しくあることは、決して正しくはないのだ



殺されかけ、都を離れ、追っ手を逃れ

たった1人で逃げるうち不思議な山に迷い込んだ。


正しい節季が周囲を彩り、大気に強い力が宿る。


--ここで倒れ、朽ちてしまえば

 この世界の一部になるのだろうか



暫しぼんやりと景色に見蕩れていたタイザンは、

薮からタヌキが飛び出したのに驚き飛び退き、

運悪く崖から落ちた。





その里は、夢のような場所だった。

住み暮らす人々には現実にみえるのだろうが

他所者にとってこの地は、守られ、やすらぐ、夢のような場所だ。


そしてタイザンは、夢は醒めるのだと、知っていた。

醒めぬようにと願う一方、麓に都人を見かけた時に

山の外の現実を思い出した。

甘い願いは適わぬもの。

夢とは、よいものほど脆く、儚く、危ういもの。



大丈夫だ、心得ている

醒めるのならば良い目醒めにするのは、自分だ






目醒めた時の気分は最悪だった。

解けたばかりの封印の、攻撃的な術の残滓が体力と気力を削ぐのを振払い顔を上げる。


目の前にはガシンがいた。

長い事封じられていたらしく、

それを解いたのは経緯を説明するガシンだと知れた。

子どもと思っていたが姉に似て聡明なところもある。


驚いた事にガシンはキバチヨの契約を引き継ぎ

神操機を手に入れていた。


「…まだ終わってはいないな」

「ああ!姉上たちを取り戻そう!」


ガシンは神操機を握って、力強く頷く。

同意が当たり前の、真直ぐな視線を受けて、

タイザンは目を細めるだけで応えとした。

違う、とは教えてやらない。

手持ちの駒の特性はよく識っている。



タイザンは式神と契約するため、伏魔殿を出た。

闘神機には、まだ何も入っていない。

手にして直ぐは、期が悪いと思い契約を控えていた。

ウツホを失った里の瓦解、立場的な敗北は目に見えていたし、

捕まるなら式神を持たない方が穏やかにすむはずだと。


契約は初めてだが知識はある。

通常、最初の契約は闘神士の節季を反映する。

自分の節季は大雪、因むのは霜花。


折りしもうつ世は師走夜の雪景色

満たない月でも雪原は明るく目を射た。


人はおろか動物の気配もない場所にひとり立つと不思議な心持ちがする。

風も無く、音は雪が吸い、静けさは耳にいたいほどだ。



藍色の依代が宿主を求め光を放つ



(ああ、呼んでなさる)

式界にたゆたうそれは意識をかたちにした。

太極の導きは自然と同義で、生じる流れに否を唱える理由もすべも無い。


呼び出す存在を感じた時、その場所に己が「在る」ことを認めた。

すると、向こう側でも、こちらの影を気取ったらしい。

人間が気を張った時特有のピリピリしたにおいがする。

(さっきまでは節季と交わる、ちょいと不可思議な気配だったのに)

式と契約を結ぶ時、必要以上に気負っている人間は多いけれど


『そんなに力が入ってちゃ肩が凝りやすぜ』


つぶやきが聞こえたか、人間が怯むのがわかった。


太極が告げる。


 汝が式に 契約の名を



不自然に沈黙が続いた。

人間は、先程のつぶやきを大いに検討しているらしい。

太極の言葉が白々しくなるほど間があって、ようやく声がした。

「なるほど影が見えるが、その立ち耳、犬だな」

いやに落ち着き払った口調は意識してだろうか、それとも普段からそうなのか。

人と対峙するのは幾年ぶりか何度目か、などと憶えてはいないが

こんな切り出しは始めてだ。

興が乗って、軽い調子で応じる。

『さて、鬼の角かもしれやせんぜ』

「犬より鬼の方が強そうで良い」

人間の、鼻で嘲笑う言い方が気に入って、式は肩を揺らして笑った。

それに気付いて不愉快そうな様子もまた満足できる反応だった。

『今度のダンナは面白そうだが、契約はどうなさるんで?』

「戦闘向きらしいが、おまえは強いのか。」

不躾な問いもますます面白い。霜花族のことはとっくに承知らしい。

『ダンナ次第でさァ。残念ながらあっしは鬼じゃありやせんがね』


「充分だ。わたしが目的のためにそうあるからな」

式は、笑うのを止めて顔を上げた。

面白いだけでなく、難しくもあるらしい。

けれどそれは負に働く印象ではなかった。

『でしたら、名を』


そもそも太極の引き合わせは印象などよりもっと確かな縁なのだ。


告げられた名は、影だけでは判じがたい姿を言い当てていて、

ああやっぱり、と式神は見据えた絆に口の端を引き上げた。

これから千年の刻を共に歩むことになる、その絆。


雪原にはタイザンの足跡しか残らない。

けれど、来た時と違い今はもうひとつの存在が有った。




時は平安の末期。

タイザンが封じられてより、300年近くが過ぎていた。


 

 

 

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